2020年6月19日、総務省はどんなときもWiFiを運営する株式会社グッド・ラックに対し、行政指導を行いました。
行政指導は、グッド・ラックが必要な設備増強や対策を施さず、通信速度の低下を招いたことや、2月から3月に起こった通信障害や速度制限への対応不足などが主な理由。
本記事では、具体的な経緯や指導内容、無制限を謳うポケットWiFiを扱っている他社への影響について解説します。
どんなときもWiFiが総務省の行政指導を受けた
LTE系の無制限WiFiにおけるパイオニアとして有名だったどんなときもWiFi。現在は、4月上旬から「サービス安定供給の観点」を理由に新規受付を停止しています。
どんなときもWiFiが、総務省から行政指導を受けるに至った具体的な経緯をまとめました。
行政指導を受けるに至った経緯は?
総務省が公表した「MVNOサービス「どんなときもWiFi」の利用者へのサービス提供に係る株式会社グッド・ラックに対する指導等」によると、ポイントは以下の3点。
- 通信速度の低下に対する利用者からの多数の苦情
- 無制限を謳っていたものの、実際は著しい速度制限をしていた
- 一定の基準を超過した利用者に月25GBの上限を設けたうえでその基準を公開しなかった
一つずつ詳しく見ていきます。
通信速度が低下する問題が起きて、多数の利用者からの苦情相談があった
まず問題の発端は、どんなときもWiFiの通信速度が遅くなっていたことにあります。
3月には通信障害が発生し、どんなときもWiFi側が「改善した」と公表しても実際は解消されていないなど、多数の利用者の間で苦情が上がっていました。
原則的には「無制限」を謳っていたが、実際は通信速度を著しく制限していた
どんなときもWiFiは原則「無制限」を謳っていました。
実際に本サイトが以前、どんなときもWiFiに確認した際にも「1TB(テラバイト)でも掛からない」と説明を受けたことがあります。
一応グッド・ラックとしては、「回線を占有するほどの過剰な通信や、違法ダウンロードなどの行為があった場合は384Kbps以下の制限を掛ける可能性がある」ことを公表してはいました。
ただ、実際は384Kbpsどころか0に近い速度しか出ないという人もいるほど、通信速度を著しく制限していた事実が判明したというわけです。
一定の基準を超えた利用者に対して月間25GBを上限とする基準を公開しなかった
総務省が特に問題視しているのは、「超ヘビーユーザー」に対する月間制限とその対応です。
その制限は月間25GBというもの。1日1GB使っても、月の後半には制限に掛かるほどの厳しい制限に相当します。
しかも、どんなときもWiFiはこれを一切公表せず、利用者からの問い合わせに対しても一律に答えないようにしていました。
利用者の利益を損ない、社会的にも大きな影響を及ぼしたと判断された
総務省は「多数の苦情」「著しい速度制限」「制限の非開示」といった、どんなときもWiFiの対応は、利用者の利益を損なっていることを指摘。
以上の経緯を踏まえ、総務省はグッドラックに対し、電気通信事業法の第1条「利用者利益の保護」、第27条「苦情等処理義務」、第27条の2第1号「事実不告知等の禁止への違反」を認め、法の遵守を徹底することを求めました。
総務省はどんなときもWiFiに対して指導した内容とは?
総務省による具体的な指導内容は主に以下の4点。
- 問題発生の根本原因を解明すること
- 利用者への適切な情報を提供すること
- 苦情等処理義務を遵守すること
- 実際より高い品質を謳わないこと
一つずつ確認していきます。
問題発生の根本原因を解明すること
総務省は、どんなときもWiFiと回線供給元との連携不足や、契約数に対して必要な設備増強の準備不足など、速度遅延や通信障害が起こった根本となる原因の解明を指示しています。
クラウドSIMのポケットWiFiは、WiMAXなどの物理SIMに比べて、設備増強などのメンテナンス管理が非常に重要です。
この部分が改善されないと、サービスが再開されても通信の問題が解消されないため、最重要事項と言えるでしょう。
利用者への適切な情報を提供すること
どんなときもWiFiは、通信障害により通信ができなかったユーザーに対して、月額料金の払い戻しや、解約違約金を取らないといった対応を取っていました。
ただ、超ヘビーユーザーには月間25GBの制限を掛けているといった内容を一切公表していなかったのは、ユーザーに対する適切な対応だったとは言えません。
そこで総務省は電気通信事業法第1条の「利用者利益の保護」に照らし、適切な情報提供や措置を行うことを求めています。
苦情等処理義務を遵守すること
どんなときもWiFiの公式Twitterにはカスタマー対応のアカウントがありますが、そこにもリプライでかなりの数の苦情が寄せられていました。
カスタマーセンターへの電話もなかなか繋がらない、問い合わせても説明をしっかりしてくれないなど不満を漏らす人の数はかなり多かったです。
指導では、そういった態勢を整備し、法律で義務付けられている苦情等処理への対応を求めています。
実際より高い品質を謳わないこと
「原則無制限」といった、実質より高い品質を謳わないことも指導内容のうちの一つ。
「無制限と言いながら制限がある」というのは、ポケットWiFi業界では以前からよく指摘されていることですが、実際は「3日で10GB」「回線を占有する過剰な通信で」といった制限はあります。
ただ、こういった制限内容を利用規約、重要事項説明書に記載してあっても、正直「無制限ではない」ことを分かりやすく表記する企業は多くありません。
なお、どんなときもWiFiが総務省に再発防止措置を報告するリミットは7月16日。
どんなときもWiFiがどのような対応を取るのか、詳細が分かり次第、本記事に追記する予定です。
総務省の注意喚起を受けて他社は対応に追われている
どんなときもWiFiの行政指導を受け、同様にクラウドSIM端末を取扱っているポケットWiFiでは対応に追われています。
今すぐ他のポケットWiFiも同じように指導を受けるようなことは無いとは思いますが、総務省からの注意喚起を受けて、サービス内容の見直しや規約の変更等を検討しているはずです。
既に、設備増強を理由に新規受付を停止したり、「無制限」ではなく「1日〇GB」の制限を設けたりしているところがいくつか出てきているので、具体的にどのような対策をしているのかチェックしておきましょう。
設備の増強を優先するために新規申し込みを停止しているところもある
設備増強を優先して新規受付を停止しているギガゴリWiFiワールドと、設備増強の継続について説明文書を公表しているTHE WiFiの対応は以下の通りです。
ギガゴリWiFiワールドは新規受付を停止して設備増強を行っている
ギガゴリWiFiワールドは、サービスを開始した当初から「設備増強を継続的に行うこと」をウリにしていました。
安定した通信環境を提供するため、設備増強を定期的に実施しています。
(引用:ギガゴリWiFiワールド公式)
その後、テレワーク需要もあって申込者数が激増。設備増強を理由に、5月13日でサービスの新規受付を停止しています。
テレワーク等によるトラフィックの大幅な増加に対する設備の増強を優先するため、新規顧客の受付停止を行う判断をとらせていただきました。
(引用:ギガゴリWiFiワールド公式)
設備増強が満足にいかなければ、速度遅延や通信障害といった問題が起こる可能性が出てきますから、ギガゴリWiFiワールドが新規受付を停止したのは、正しい判断でしょう。
THE WiFiは設備増強の継続と回線供給元の連携に関する文章を公式サイトに記載
THE WiFiは、5月にデータ通信の速度低下を認めてユーザーに謝罪し、通信設備の強化等を実施してきました。
その後6月19日に第二次報告を公式サイトに記載。
ここでは、契約者数の増加と、1人当たりの通信量が予想の約1.6倍に増大に対して確保した設備では対応が追い付かず、速度低下が発生したことを報告しています。
さらに、速度が著しく低下したユーザーについては、代替機の貸与や解約手数料の免除などで対応しており、今後も設備増強の継続や、回線供給元との連携を図るということです。
なお現在は、制限を新たに設け、新規ユーザーは1日の使用量が4GBを超えると128Kbpsに速度が低下します。
「無制限」を強く推すポケットWiFiが減ってきている
ギガゴリWiFiワールドやTHE WiFiのように設備増強に力を入れているポケットWiFiがある一方で、いくつかのポケットWiFiでは既に「無制限」から「制限あり」へ舵を切り始めています。
- 限界突破WiFi→1日あたり5GBで下り4Mbps、10GBで1Mbps
- ハイホーレッツWiFi→1日あたり7GB、月間通信量217GBまで保証
- それがだいじWiFi→月間通信量100GBまで
上記3社における速度制限の基準とその内容について確認しておきましょう。
限界突破WiFiは1日あたり5GBと10GBで段階的に制限を加える内容に変更
無制限を謳って2019年秋にサービスを開始した限界突破WiFiですが、2020年4月に速度制限に関するルールを変更。
現在、限界突破WiFiでは、1日あたり5GBまでは高速データ通信、5GBを超過すると下り4Mbps/上り1Mbpsの制限、10GB以上になると128Kbpsの制限を設けています。
10GBを超過しても通信自体はできること、制限は24時にリセットされること、月間の通信量に制限はないことで、快適なインターネット通信が引き続きできることをアピールしています。

ハイホーレッツWiFiは1日7GBで翌々日に速度制限が掛かる
ハイホーゴーゴーWiFiは端末の在庫切れで新規受付を停止。それから数ヶ月して2020年6月にhi-hoから新しくハイホーレッツWiFiの新規受付が開始されました。
ハイホーレッツWiFiの特徴は、クラウドSIM端末でありながら「無制限に使えることを謳っていない」こと。
速度制限のボーダーは1日7GBで、翌々日に128Kbpsの速度制限が掛かる仕組みです。ちなみに月間通信量は217GBまで保証されています。
1GBは、YouTubeを1日1時間見るくらいの通信量と言われているので、1日7時間程度見ると掛かるくらい。正直、動画やSNSなど一般的な使い方なら、月217GBを使い切るのは結構大変です。
ハイホーレッツWiFiは、多くの人にとって不自由せずに使える「無制限」のようなポケットWiFiと言えるでしょう。

クラウドSIMプランを始めたそれがだいじWiFiは月100GBまで
それがだいじWiFiは旧プランの端末が在庫切れとなり、2020年6月に新しくクラウドSIMプランを始めました。
総務省からの注意喚起も影響しているのか、それがだいじWiFiは新プランにおいて月100GBで速度制限の基準を設けています。
1日あたりの速度制限はありませんが、ハイホーレッツWiFiに比べると月間通信量が少なく、目安は1日3~4GB程度です。
ポケットWiFiを契約する時は設備増強状況や制限内容を要チェック
どんなときもWiFiの行政指導の内容や、他社の対応などについて解説してきました。
ポケットWiFiで謳われている「無制限」の扱い方は以前から様々な指摘がありましたが、どんなときもWiFiが行政指導を受けたことで、今後その表記や基準を改めるポケットWiFiが増えるのは確実。
利用者としても契約する以上、料金に見合った通信速度で通信できて、知らされている基準で制限のあるポケットWiFiのほうが安心して長く使えますよね。
恐らく今後は「無制限」を推すポケットWiFiよりも、1日あたりや月間で使える通信量をはっきりと示しているポケットWiFi人気が高まっていくことでしょう。
もちろん、契約時は設備増強の状況や制限内容などをしっかり確認することをお忘れなく。